………怖い。
夜が明けて、もう30分ほどもたつのに。 部屋の中から動き出せずにいます。
先ほどまでは、この日誌を前にして、 ただ、ジッとしているだけでしたから、 窓の外から見ている人でもいれば、私は、 さぞかし変な姿でしたでしょうね。
いま、どうしてだろう。 怖い。
怖くてしょうがない。
………………
日誌を前に、微動だにせず、化石のようにジッとして。 気付くと、呟いている。 あの、特別な言葉。 なんどもこの呪文に助けて貰ってきた。 あの人の声を、思い出しながら。
トキコさまがいきなり空中から顕れた時には、 それは吃驚いたしましたが。 ………それで、あの時のことが夢でなかったと、 後から考え直して、思い知りました。
いや、 笑われそうだから、誰にも今まで言った事はないけれど。 私は、小さいとき、一度、天使に逢ってるンですよ。 天使に限らず、人でないものには、 しょっちゅう遭遇してましたけれどね。
トキコさん………には、きっと聞かない方が良いのだろうな。 聞くと、失われてしまうものが、 間違いなくそこにはある気がするから。 ただ、感謝を。
あなたがいま、 この世界にいてくださって、本当に、良かった。 あの方だけでなく、みんなそうだ。
刃さま、風逢さま、萵苣さま、ファーレさま。 それに、トキコさまにセリさま。 ………有坂さん。
否応なく、巻き込んでしまったとしか言えなくても。 あの方々が、私の側にいて下さるから、 私は狂わないで済んでいる。間違いなく。
………………
そして、それでも、 どうしてだろう、いま、怖い。
いつもなら、もう、店に入って、最初のお客様へのご用意などを、 はじめていた頃だ。
涼と二人で過ごした日なら、 寝坊して寝坊して、二人でどれだけ寝坊できるか、 ベッドで競いあったな。
この恐ろしさは、「いずみ」に託したもののせい?
それとも、これから起こる何かのせい?
私の一部は。
確実に何かを理解しはじめている。
私はそれを畏れているんだ。
わからないままでいたいと望んでいる。
…………願わくば、涼。
今日、今すぐ帰ってきて。
何かが来る。私はもう、持たないかもしれない………!
|
|
|