++天空カフェ日誌++


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宮さまの日誌を

 7月28日。 午後4時。

宮さまの部屋にて。有坂岳彦。


 このボイスレコーダーの記録も、かなり膨大になってきた。
メモリに移したものともども、そろそろ整理をしないと、
 自分の記録の中で迷子になる羽目になりかねない。


 本日、早朝。正確な時間はわからないが、
宮さまが室長にとうとう捕縛される。
 私がまだ、土御門家から車で戻っていた時間帯だ。

室長がそのことも計算にいれて、美耶子さまを
 私に送らせたのは、まず、疑いようがない。
あの人には心底………なぞと思いめぐらすのも時間の無駄だ。


 室長も焦っておられるのかもしれぬ。
姫の居所が知れたことに。


 無論、姫が戻られれば、情勢はがらりと変わる。

もし、お戻りになられたとき、
 なんらかの方法で(その方法は知れないが)
姫がそのお力を取り戻しておられれば、
 <大表の方>さまのお気持ちは、
大きく姫を赦される方向に傾くに違いない。


 むろん、陰陽寮や、他のやんごとなき方々の動向も
影響してこようが、
 現在のような圧倒的不利な(室長から言えば、無論、圧倒的優位)状況で有り得ないことは確かだ。


 室長はなんとかして、宮さまを、
姫さまの身柄が確保される、それ以前に手に入れておかれ
たかったのではないか?

 ………しかし、宮さまを捕縛し、室長が何を目論んでいるのか、
それはまだ何一つ明かではない。
 やはり、一度は<オモテ>に戻り、情報収集に務めるべきだろう。


とにもかくにも、姫さまの居所が知れた、
 その決め手はやはりファーレさまの透視だ。
<アーク>の名と、船という手がかりを戴いた。
 が、これ以上、ファーレさまに深く姫さまと<オモテ>の………
いや、室長との、か………の確執の間に入って戴くのも、
 どうなのかというのが、私の正直な気持ちではある。


 室長は姫さまの兄だというだけで、
宮さまを本気で永久牢獄へ投獄しようとなさる方だ。
 ファーレさまが姫さまの肩を持つと知れば、
また、どのような害をなさぬとも限らぬ。


 あの方には………ファーレさんには。
これ以上、苦しい思いをしていただきたくない。


 そして、その事とは、また、別に。

気になることがまた一つ、生じた。

 先ほどから、宮さまの日誌を失礼ながら拝見している。
が、姫さまが消えられてから、
 今朝にかけて書かれたと思われる記述に、
不可思議な点があまりに多い。
 情緒不安定でいらしたせいか。

しかし、今朝なぞ、まったく不可解なこと極まりない。

 この文面を読めば、まるで宮さまは、
ご自分が囚われることを予感していたかのような………

 宮さまが「いずみ」とやらに「託された」と
そう言われているものは何だ?

 室長がこの期に宮さまを捕らえた。
それと、関わりのあることなのか?

 …………とにもかくにも、まず、オモテだ。
カフェの皆さまに、有る程度のことをご案内したならば、
とんぼ返りせねばなるまい。


 やることは山のようにある。
それも早急。


 太郎次郎が戻ってくれた。
それに、姫さまの残して下さったあの「保険」………
 まったくもって、腹立たしい。

あのようなものがあるのならば、姫さまは、
 最初から隠さず私の見える場所に
残しておかれるべきではないか。
 それを………

あぁ、詮方ない!
 そのあたりのことは、もはや事がすべて片づいてからだ。

現在の急務は、宮さま奪還。
 そして、そのためにも、カフェに残る方々には、
ここを脱出していただかねばならぬ。

 来るべき日が来るまで。
私も、また、そのときは
 身を隠さねばなるまいが………


(深い沈黙のあと、失笑)

 
 神さまと思わず呟きたくなるが、さてはて、
一体、どの神にすがるのが、
 もっとも霊験あらたかなのだろう?

姫さまがおいでならば、あの方一人に帰依するので
 十分なのだが(苦笑)
いや、それも、ほかに手をまわせる余裕などないという、
 それだけのことかもしれん。


 考えがまとまらなくなってきたな。
今はここまでだ。

                      (テープ、切れる)
2005年7月28日(木) No.46

消えゆくもの

 ………怖い。

 夜が明けて、もう30分ほどもたつのに。
部屋の中から動き出せずにいます。

 先ほどまでは、この日誌を前にして、
ただ、ジッとしているだけでしたから、
 窓の外から見ている人でもいれば、私は、
さぞかし変な姿でしたでしょうね。


 いま、どうしてだろう。
怖い。

 怖くてしょうがない。


 ………………


 日誌を前に、微動だにせず、化石のようにジッとして。
気付くと、呟いている。
 あの、特別な言葉。
なんどもこの呪文に助けて貰ってきた。
 あの人の声を、思い出しながら。


トキコさまがいきなり空中から顕れた時には、
 それは吃驚いたしましたが。
………それで、あの時のことが夢でなかったと、
 後から考え直して、思い知りました。


いや、
 笑われそうだから、誰にも今まで言った事はないけれど。
私は、小さいとき、一度、天使に逢ってるンですよ。
 天使に限らず、人でないものには、
しょっちゅう遭遇してましたけれどね。


 トキコさん………には、きっと聞かない方が良いのだろうな。
聞くと、失われてしまうものが、
 間違いなくそこにはある気がするから。
 ただ、感謝を。


あなたがいま、
 この世界にいてくださって、本当に、良かった。
あの方だけでなく、みんなそうだ。


 刃さま、風逢さま、萵苣さま、ファーレさま。
それに、トキコさまにセリさま。
 ………有坂さん。


 否応なく、巻き込んでしまったとしか言えなくても。
あの方々が、私の側にいて下さるから、
 私は狂わないで済んでいる。間違いなく。

 

 ………………


 そして、それでも、
どうしてだろう、いま、怖い。


いつもなら、もう、店に入って、最初のお客様へのご用意などを、
 はじめていた頃だ。


涼と二人で過ごした日なら、
 寝坊して寝坊して、二人でどれだけ寝坊できるか、
ベッドで競いあったな。


 この恐ろしさは、「いずみ」に託したもののせい?

それとも、これから起こる何かのせい?

 私の一部は。

確実に何かを理解しはじめている。

 私はそれを畏れているんだ。

わからないままでいたいと望んでいる。



 …………願わくば、涼。

今日、今すぐ帰ってきて。

 何かが来る。私はもう、持たないかもしれない………!


2005年7月28日(木) No.45

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